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141 第130話

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Manage episode 333883418 series 2621156
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「第2小早川研究所?」
「はい。」
「…わかった。すぐに調べる。」
「もうひとつ気になることが。」
「なんや。」
「物忘れ外来の予約、問い合わせが昨日から激増しとるみたいです。」
「はぁ?」
「石大病院だけじゃなく、県内の同種の外来窓口も同様。他県はわかりません。」
「認知症が流行っとるってか?」
「現状を見る限りまさにそういう状況です。」
片倉は頭を抱えた。
「どいや…認知症がうつるって聞いたことねぇぞ。」
「似たものにクロイツフェルト・ヤコブ病ってものがあるらしいです。」
「それ狂牛病やろ。」
「はい。」
「ってかあれは狂牛病の肉とか内臓食ったらうつるってやつや。んなそれっぽい肉が流通しとるなんて話は聞いとらん。」
「光定はもとは脳神経の医師。石大病院の物忘れ外来の担当のひとりが光定。その貴重な戦力が現在欠けてしまったのも相まって、あの病院は混乱状態です。」
ふと昨日の百目鬼とのやりとりが思い起こされた。
「急に認知症のような症状が出た...ですか。」
「あぁ疼痛を抑えるための催眠治療を受けた直後から。」
「トシさんはその疼痛に?」
「いや、アイツは高血圧と狭心症だ。」
「じゃあ。」
「片倉。石川大学病院だぞ。トシさんがかかってんのは。」
「でもなんでトシさんに催眠治療なんか。」
「だから言ってるだろうが。石川大学病院だって。」
「あのぅ…理事官。自分、ちょっと頭の整理がつかんがです。」
「天宮。」
「天宮?」
「天宮なんだよ。その難治性疼痛を抑える催眠療法を施したのが。」99
「まさか …。」
「どうしました?」
「いや…いままでまさかまさかって言って、結局そうでしたって事ばっかや。」
「片倉班長?」
「そうだ。ちなみに天宮はツヴァイスタンのシンパだ。催眠と聞いて片倉、ピンとこないか。」
「瞬間催眠。」
「そう。」
「え…まさか…。」
「石川大学病院がその今川が言っていた外注先と考えられないこともない。」
「もしもそれが本当にそうやったとしたら…。」
「患者を適当に見繕って、瞬間催眠の人体実験を行っていた可能性がある。」
「MKウルトラ異聞にある瞬間催眠。その人体実験ですか。」
「ああ。」
「その対象の一人が、その今川と面会した男の父親。」
「そして古田登志夫。」99
「人体実験の結果や。」
「え?人体実験?」
「まずい。んなもん俺らの手に負えん。マサさん、あんたはそれにはタッチすんな。相馬にもそう伝えてくれ。デリケートな案件や。上層部に指示を仰ぐ。」
「はい。」
富樫との電話を切った片倉の顔からは血の気が引いていた。
「瞬間催眠の元請けが東一の第2小早川研究所…。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「聞いたことがない。」
「ですがあるはずです。」
「存在しないものにガサ入れなんてできっこない。」
「何言ってんですか。東一の事務方だった石大の病院部長がその名前を口にしてるんですよ。」
「じゃあそれが存在する証拠は。」
「だから…。」
「ダメだ。」
「もう何でも良いでしょう。とりあえず踏み込むんです。」
「片倉っ!」
「…。」
「落ち着け。今そんなことやってみろ。それこそ思う壺だ。」
「誰の。」
「いろいろ。」
「はぁー…。」
「非常にデリケートなんだ。今回のヤマ、ステークホルダーが複雑に絡み合っている。」
「…俺の段階でもそうなんですから、理事官のポジションはさらに面倒くさいことになってることは理解しています。ですが。」
「ですが、なんだ。」
「いま行動を起こさんととんでもないことになりそうな予感がするんです。」
「デカの勘的なやつか。」
「はい。」
「でもそれはできない。」
「ぐぬぅ…。」
「軽挙妄動は慎め。いままでの仕込みがすべてパアになる。俺らマルトクだけならいい。だがさっきも言ったようにこのヤマは桁違いにでかい。」
「…わかりました。私が軽率でした。申し訳ございません。」
「分かってくれればいい。だが第2小早川研究所については別ルートで調べておく。いざと言うときに直ぐにガサ入れるようにな。」
「ありがとうございます。」
百目鬼は鼻の付け根の辺りをつまむ。
疲れのためか目がかすんでいた。
「で、どうしますか理事官。」
「うん?あ、あぁ…認知症の流行か…。もしもその元が第2小早川研究所による人体実験の副産物だったとしたら…。」
「光定公信は死亡。その病気を発症する源らしきものは今回で排除されたんで、被害の拡大は考えにくいかと。」
「そうなんだが、その副作用に対する正しい対応法は闇の中のまま。やっかいだぞ。」
「確かに。」
「古田への正しい対応法も正直よくわからんからな。」
「弱りましたね。」
「あぁ弱った…。」
「直らないんですよね、認知症。」
「そうらしい。ただ進行は遅らせることはできる。現状は従来通りの認知症患者に対する対応をしてもらうしかないだろう。」
「しかし予約が殺到しとる状況です。」
「すぐに死ぬとかの話じゃ無いだろう。」
「はい。そのような話は聞いていません。」
「だったら申し訳ないがゆっくり順番ついて診察をお願いするしか無い。これが元で医療崩壊には至るなんてことはないだろう。」
「ですが周りの人間が疲弊します。」
「…。」
「厚労省の協力を仰ぐことはできないでしょうか。」
「…やってみる。」
電話切る音
ため息
「なんてやっかいな病気なんだ…。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
髪をかき上げる佐々木の目には仁川征爾の写真が映っていた。
「仁川征爾。下間芳夫ら工作員によって拉致され、ツヴァイスタンで秘密警察要員として育成。主な任務は日本語教育、亡命・移民者の管理監督。その勤務態度は極めて優秀。自分の意思に反してのツヴァイスタン生活であったが、ツヴァイスタン労働党籍を得、生活基盤を確立。将来は安泰かと思えたが、命がけの亡命。何があった…。」
仁川の写真をポケットにしまい、佐々木は車の座席を倒す。
そして何の愛想も無い車の天井部分を見つめる。
「我が国を混乱に陥れる工作要員として、オフラーナからの密命を帯びて奴はこの国に帰ってきたと勇介は言うが、本当にそうなんか?」
佐々木はそっと目を閉じた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
10年前 夏
金沢市内某喫茶店
「元気そうだったよ。」
「勇介ですか。」
「うん?」
「あ、いや…。」
「あぁそうだった。今と昔、名前が違うんだったな。」
「はい。」
「なんて名前だったんだ。」
「…高橋勇介です。」
「ほう…。」
「何の変哲も無い普通の名前です。」
「いまは陶晴宗。山口あたりの武将みたいな名前だしな。」
「立派な名前です。」
「名に恥じない仕事ぶりだよ。」
「そうですか。だったら良かった。」
佐々木と向かい合って座る男は、紅茶に口をつけた。
「あの…朝倉本部長。陶管理官が石川に来るなんてことは…。」
ティーカップをゆっくりと置き、朝倉は息をつく。
「現状では難しい。」
「…そうですか。」
「優秀な人間を石川に限って取っかえ引っかえとは流石にいかん。」
「一色課長ですね。」
「そうだ。赴任早々、ただ者では無い気配を醸し出している。奴は優秀だ。こういう人間にはここで実績を作って中央でさらに羽ばたいてもらわねばならん。」
「ですが一色課長の鬼捜査には、現場から不満が。」
「知ってる。だがそれはあくまでも組織内部だけの話。外向けには一切の苦情も受け付けていない。」
「しかし目の光らせ方が半端じゃありません。この県警の中のことで知らぬ事は一つとしてないって具合です。」
「…。」
「本部長。私とあなたの間に建前は不要です。私はあなたの影です。」
朝倉は佐々木をじっと見つめた。
「こんなに監視の目が厳しい環境だからこそ、例の件を首尾良くやる。さすればその実績を持って貴様の弟の件、何とかできるかもな。」
佐々木は唾を飲み込む。
「上陸作戦ですね。」
朝倉はうなずく。
「今度の新月のときに富来の海岸から誘導する手はずになっとります。」
「漏れは無いか。」
「ありません。さすがの一色課長にも感づかれていません。ただ…。」
「ただ何だ?」
「引っかかることがありまして。」
「なんだそれは。」
「生安に矢高という男が居るんですが、ここ最近、夜な夜な海岸線に出没するんです。」
「ほう。」
「この間の上陸の際も、上陸ポイントから500メートル先の居酒屋で呑んどったのを確認しています。」
「監視してるな。まさか一色の手下とか。」
「いや、それはないでしょう。」
「どうして言い切れる?」
「そもそも接点がありません。奴は所轄署と交番を行ったり来たりしとる何の特徴も無い人間です。」
「そういう特徴も何もない人間が本当のところ怖いんだ。」
「杞憂です。矢高の周囲は調べ済みです。ただ。」
「上陸監視をしている可能性は否定できない。か。」
「はい。」
「年齢は。」
「40です。」
「特徴が無いのが特徴…。」
「はい。」
「誰に指示されること無く、単独で監視してる感じか?」
「はい。」
朝倉は腕を組んだ。
「邪魔だな。」
「はい。」
「消えてもらうか。」
「よろしいですか?」
「うん。」
「ではこちらで手はずを整えます。」
「こういうものは早めに対処しておくに限る。」
「はい。」
「これで抜かりないな?」
「はい。」
「ではよろしく。」
「勇介の件。」
「…。」
「前向きにご検討くださいますようお願い申し上げます。」
「もちろんじゃないか。」
それから数日後の夜。
佐々木は能登方面のとある小さな港町の民宿にあった。
「あー酔った。ちょっと夜風に当たってくるよ。」
「お客さん。あんまり外に出んほうがええよ。」
「なんで?」」
「人攫いが出る言う噂ある。」
民宿の親父が佐々木と目を合わせないように言う。
「人攫い?」
「悪いことは言わん。出るにしても玄関先で涼む程度にしとき。」
「わかったよ。」
ー拉致事件は2000年を境に収まったはずやが、ここら辺の住民はそれを依然として警戒しとるってわけか…。
外に出た佐々木はそこでたばこに火をつけた。
たばこの音
ー目の前は漆黒の闇。
ー当たり前か…。目の前は海やもんな…。
ーポツンポツンとある住宅の明かりが、かろうじてあたりをなんとなく照らすって具合。
ー未だに人攫いを警戒してもおかしくない。
ー逆を言えば、それだけ人気が無いってことだ。
ーで…。
佐々木の目の先には暗闇の中に赤く丸い光を灯す建物が映っていた。
矢高のいる駐在所である。
明かりがついている。
パトカーも自転車も止まっている。
ー奴はこの人気の無い暗闇を夜な夜な警邏しとるってわけや。
「ご苦労さん。」
佐々木がたばこの火を消すと音も無く2名の人間が暗闇から現れ、矢高の休む駐在所に向かっていった。
「攫うよりこちらの方が簡単でね。」
こう言うと佐々木は民宿の中に引っ込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【Twitter】
https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM
ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。
皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。
すべてのご意見に目を通させていただきます。
場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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「はい。」
「…わかった。すぐに調べる。」
「もうひとつ気になることが。」
「なんや。」
「物忘れ外来の予約、問い合わせが昨日から激増しとるみたいです。」
「はぁ?」
「石大病院だけじゃなく、県内の同種の外来窓口も同様。他県はわかりません。」
「認知症が流行っとるってか?」
「現状を見る限りまさにそういう状況です。」
片倉は頭を抱えた。
「どいや…認知症がうつるって聞いたことねぇぞ。」
「似たものにクロイツフェルト・ヤコブ病ってものがあるらしいです。」
「それ狂牛病やろ。」
「はい。」
「ってかあれは狂牛病の肉とか内臓食ったらうつるってやつや。んなそれっぽい肉が流通しとるなんて話は聞いとらん。」
「光定はもとは脳神経の医師。石大病院の物忘れ外来の担当のひとりが光定。その貴重な戦力が現在欠けてしまったのも相まって、あの病院は混乱状態です。」
ふと昨日の百目鬼とのやりとりが思い起こされた。
「急に認知症のような症状が出た...ですか。」
「あぁ疼痛を抑えるための催眠治療を受けた直後から。」
「トシさんはその疼痛に?」
「いや、アイツは高血圧と狭心症だ。」
「じゃあ。」
「片倉。石川大学病院だぞ。トシさんがかかってんのは。」
「でもなんでトシさんに催眠治療なんか。」
「だから言ってるだろうが。石川大学病院だって。」
「あのぅ…理事官。自分、ちょっと頭の整理がつかんがです。」
「天宮。」
「天宮?」
「天宮なんだよ。その難治性疼痛を抑える催眠療法を施したのが。」99
「まさか …。」
「どうしました?」
「いや…いままでまさかまさかって言って、結局そうでしたって事ばっかや。」
「片倉班長?」
「そうだ。ちなみに天宮はツヴァイスタンのシンパだ。催眠と聞いて片倉、ピンとこないか。」
「瞬間催眠。」
「そう。」
「え…まさか…。」
「石川大学病院がその今川が言っていた外注先と考えられないこともない。」
「もしもそれが本当にそうやったとしたら…。」
「患者を適当に見繕って、瞬間催眠の人体実験を行っていた可能性がある。」
「MKウルトラ異聞にある瞬間催眠。その人体実験ですか。」
「ああ。」
「その対象の一人が、その今川と面会した男の父親。」
「そして古田登志夫。」99
「人体実験の結果や。」
「え?人体実験?」
「まずい。んなもん俺らの手に負えん。マサさん、あんたはそれにはタッチすんな。相馬にもそう伝えてくれ。デリケートな案件や。上層部に指示を仰ぐ。」
「はい。」
富樫との電話を切った片倉の顔からは血の気が引いていた。
「瞬間催眠の元請けが東一の第2小早川研究所…。」
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「聞いたことがない。」
「ですがあるはずです。」
「存在しないものにガサ入れなんてできっこない。」
「何言ってんですか。東一の事務方だった石大の病院部長がその名前を口にしてるんですよ。」
「じゃあそれが存在する証拠は。」
「だから…。」
「ダメだ。」
「もう何でも良いでしょう。とりあえず踏み込むんです。」
「片倉っ!」
「…。」
「落ち着け。今そんなことやってみろ。それこそ思う壺だ。」
「誰の。」
「いろいろ。」
「はぁー…。」
「非常にデリケートなんだ。今回のヤマ、ステークホルダーが複雑に絡み合っている。」
「…俺の段階でもそうなんですから、理事官のポジションはさらに面倒くさいことになってることは理解しています。ですが。」
「ですが、なんだ。」
「いま行動を起こさんととんでもないことになりそうな予感がするんです。」
「デカの勘的なやつか。」
「はい。」
「でもそれはできない。」
「ぐぬぅ…。」
「軽挙妄動は慎め。いままでの仕込みがすべてパアになる。俺らマルトクだけならいい。だがさっきも言ったようにこのヤマは桁違いにでかい。」
「…わかりました。私が軽率でした。申し訳ございません。」
「分かってくれればいい。だが第2小早川研究所については別ルートで調べておく。いざと言うときに直ぐにガサ入れるようにな。」
「ありがとうございます。」
百目鬼は鼻の付け根の辺りをつまむ。
疲れのためか目がかすんでいた。
「で、どうしますか理事官。」
「うん?あ、あぁ…認知症の流行か…。もしもその元が第2小早川研究所による人体実験の副産物だったとしたら…。」
「光定公信は死亡。その病気を発症する源らしきものは今回で排除されたんで、被害の拡大は考えにくいかと。」
「そうなんだが、その副作用に対する正しい対応法は闇の中のまま。やっかいだぞ。」
「確かに。」
「古田への正しい対応法も正直よくわからんからな。」
「弱りましたね。」
「あぁ弱った…。」
「直らないんですよね、認知症。」
「そうらしい。ただ進行は遅らせることはできる。現状は従来通りの認知症患者に対する対応をしてもらうしかないだろう。」
「しかし予約が殺到しとる状況です。」
「すぐに死ぬとかの話じゃ無いだろう。」
「はい。そのような話は聞いていません。」
「だったら申し訳ないがゆっくり順番ついて診察をお願いするしか無い。これが元で医療崩壊には至るなんてことはないだろう。」
「ですが周りの人間が疲弊します。」
「…。」
「厚労省の協力を仰ぐことはできないでしょうか。」
「…やってみる。」
電話切る音
ため息
「なんてやっかいな病気なんだ…。」
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髪をかき上げる佐々木の目には仁川征爾の写真が映っていた。
「仁川征爾。下間芳夫ら工作員によって拉致され、ツヴァイスタンで秘密警察要員として育成。主な任務は日本語教育、亡命・移民者の管理監督。その勤務態度は極めて優秀。自分の意思に反してのツヴァイスタン生活であったが、ツヴァイスタン労働党籍を得、生活基盤を確立。将来は安泰かと思えたが、命がけの亡命。何があった…。」
仁川の写真をポケットにしまい、佐々木は車の座席を倒す。
そして何の愛想も無い車の天井部分を見つめる。
「我が国を混乱に陥れる工作要員として、オフラーナからの密命を帯びて奴はこの国に帰ってきたと勇介は言うが、本当にそうなんか?」
佐々木はそっと目を閉じた
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10年前 夏
金沢市内某喫茶店
「元気そうだったよ。」
「勇介ですか。」
「うん?」
「あ、いや…。」
「あぁそうだった。今と昔、名前が違うんだったな。」
「はい。」
「なんて名前だったんだ。」
「…高橋勇介です。」
「ほう…。」
「何の変哲も無い普通の名前です。」
「いまは陶晴宗。山口あたりの武将みたいな名前だしな。」
「立派な名前です。」
「名に恥じない仕事ぶりだよ。」
「そうですか。だったら良かった。」
佐々木と向かい合って座る男は、紅茶に口をつけた。
「あの…朝倉本部長。陶管理官が石川に来るなんてことは…。」
ティーカップをゆっくりと置き、朝倉は息をつく。
「現状では難しい。」
「…そうですか。」
「優秀な人間を石川に限って取っかえ引っかえとは流石にいかん。」
「一色課長ですね。」
「そうだ。赴任早々、ただ者では無い気配を醸し出している。奴は優秀だ。こういう人間にはここで実績を作って中央でさらに羽ばたいてもらわねばならん。」
「ですが一色課長の鬼捜査には、現場から不満が。」
「知ってる。だがそれはあくまでも組織内部だけの話。外向けには一切の苦情も受け付けていない。」
「しかし目の光らせ方が半端じゃありません。この県警の中のことで知らぬ事は一つとしてないって具合です。」
「…。」
「本部長。私とあなたの間に建前は不要です。私はあなたの影です。」
朝倉は佐々木をじっと見つめた。
「こんなに監視の目が厳しい環境だからこそ、例の件を首尾良くやる。さすればその実績を持って貴様の弟の件、何とかできるかもな。」
佐々木は唾を飲み込む。
「上陸作戦ですね。」
朝倉はうなずく。
「今度の新月のときに富来の海岸から誘導する手はずになっとります。」
「漏れは無いか。」
「ありません。さすがの一色課長にも感づかれていません。ただ…。」
「ただ何だ?」
「引っかかることがありまして。」
「なんだそれは。」
「生安に矢高という男が居るんですが、ここ最近、夜な夜な海岸線に出没するんです。」
「ほう。」
「この間の上陸の際も、上陸ポイントから500メートル先の居酒屋で呑んどったのを確認しています。」
「監視してるな。まさか一色の手下とか。」
「いや、それはないでしょう。」
「どうして言い切れる?」
「そもそも接点がありません。奴は所轄署と交番を行ったり来たりしとる何の特徴も無い人間です。」
「そういう特徴も何もない人間が本当のところ怖いんだ。」
「杞憂です。矢高の周囲は調べ済みです。ただ。」
「上陸監視をしている可能性は否定できない。か。」
「はい。」
「年齢は。」
「40です。」
「特徴が無いのが特徴…。」
「はい。」
「誰に指示されること無く、単独で監視してる感じか?」
「はい。」
朝倉は腕を組んだ。
「邪魔だな。」
「はい。」
「消えてもらうか。」
「よろしいですか?」
「うん。」
「ではこちらで手はずを整えます。」
「こういうものは早めに対処しておくに限る。」
「はい。」
「これで抜かりないな?」
「はい。」
「ではよろしく。」
「勇介の件。」
「…。」
「前向きにご検討くださいますようお願い申し上げます。」
「もちろんじゃないか。」
それから数日後の夜。
佐々木は能登方面のとある小さな港町の民宿にあった。
「あー酔った。ちょっと夜風に当たってくるよ。」
「お客さん。あんまり外に出んほうがええよ。」
「なんで?」」
「人攫いが出る言う噂ある。」
民宿の親父が佐々木と目を合わせないように言う。
「人攫い?」
「悪いことは言わん。出るにしても玄関先で涼む程度にしとき。」
「わかったよ。」
ー拉致事件は2000年を境に収まったはずやが、ここら辺の住民はそれを依然として警戒しとるってわけか…。
外に出た佐々木はそこでたばこに火をつけた。
たばこの音
ー目の前は漆黒の闇。
ー当たり前か…。目の前は海やもんな…。
ーポツンポツンとある住宅の明かりが、かろうじてあたりをなんとなく照らすって具合。
ー未だに人攫いを警戒してもおかしくない。
ー逆を言えば、それだけ人気が無いってことだ。
ーで…。
佐々木の目の先には暗闇の中に赤く丸い光を灯す建物が映っていた。
矢高のいる駐在所である。
明かりがついている。
パトカーも自転車も止まっている。
ー奴はこの人気の無い暗闇を夜な夜な警邏しとるってわけや。
「ご苦労さん。」
佐々木がたばこの火を消すと音も無く2名の人間が暗闇から現れ、矢高の休む駐在所に向かっていった。
「攫うよりこちらの方が簡単でね。」
こう言うと佐々木は民宿の中に引っ込んだ。
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